演題

PIL-01

林学者本多静六に学ぶ 持続可能な社会の構築

[演者] 北 康利:1
1:作家

人名録的に言えば,本多静六は林学を専門とする東京帝国大学農科大学教授ということになろう.しかし,多面的な活躍をなした彼の人生を,とてもこの肩書きだけで語ることはできない.
本業だけとっても,水源林や鉄道林の整備,大学演習林の設置,明治神宮や日比谷公園をはじめ全国61箇所にわたる公園の設計,荒廃した六甲山への植林等,手がけた仕事は多岐にわたる.
そもそも木を植え森を造るなどということは一代ではなしえない.通常,人はそう考える.自分たちの持ち時間は短く,成し得たい夢は大きすぎる.ところが本多はそうしたことなど意に介さず,種を蒔き続けた.彼の仕事は,常に次世代を担う若者たちのためにあったのである.
今,神宮の森は,本多静六が考えていた自然植生に限りなく近い段階まで来ている.観察できる鳥の種類は年間50種を超え,オオタカの生息地にもなっている.
人間が一生かけて目指すべきなのは,おそらく豊かな〝森〟なのだろう.巨大なビルではない.〝森〟でなければならない.森は永遠の時間を刻み,自分が生きるだけではなく,多くの生き物を育む.それはまさに現代社会でよく耳にするサステナビリティ(持続可能性)の理想形である.
本多はいわゆる生来の天才ではなかった.ひたすらに努力の人であった.「人生即努力,努力即幸福」という彼の言葉がそのことを雄弁に物語っている.早くに人生計画を立て,よい習慣を身につけて実践していった.
四分の一天引き貯金を実行し,株や山林に投資して現在価値にして何百億円の資産を有する大資産家になった.一方で1日1ページ以上の執筆をノルマとし,残した本は実に376冊.専門書も多いが,人生論や蓄財の指南書にまで及ぶ.
健康に留意して85年の長命を享受し,その晩年,積み上げた資産のすべてを故郷埼玉県の若者の育英資金として寄付してしまった.
そんな本多静六の人生を軸に,これまで書いてきた評伝の主人公たちのエピソードにも触れながら,この国を〝永遠の森〟にする方策について考えてみたい.
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